委任状と翻訳と認証 ― 署名認証と宣誓認証 (I)

今回は、マカオで会社を経営する方からの依頼です。

依頼人は、一年ほど前に自分が経営する会社を売却することにし、相手先を探していたところ、ようやく買い手が見つかり手続きを進めることになったそうです。会社の株式は依頼者本人と奥さんとの共有名義になっているため、契約を結ぶために、ご主人を手続き一切の代理人にするという奥さんからの委任状を作成する必要があるとのことです。

現地の弁護士から英文の委任状のひな形が送られてくるので、それを日本語に翻訳して、英語版、日本語版とも Notarization (公証) と Legalization (認証) をしてもらうように、と指示がありました。

ほどなくこのひな形が送られてきたので、まずは翻訳を済ませました。このひな形は公証人が主語となっていて、自分の面前で譲与人(委任をする人)が宣誓して云々という文言があります。この文言をこのまま使って公証を受けようとしても、公証人は引き受けてくれないだろうなとは思いましたが、一応、問い合わせてみました。

「おっしゃる通り、これでは公証はできませんねぇ」とのこと。そこで、前文と後文として置かれている公証人の言葉の部分を削除して、本来の委任状の形式、つまり、譲与人である奥さんがご主人にこれこれの手続き一切を委任するという形式にしました。「それならもちろんオーケーです」とのことです。訂正した日本語に合わせて英語版も訂正しました。

マカオの弁護士がスキャンコピーを送れというので、送りました。すると、返信があり、これには自分が作った公証人の前文と後文がないので使えない、と主張します。また、いつもの通り、翻訳文の翻訳宣誓文に当方の担当翻訳者がサインをすることにしていたのですが、そのことも駄目だ、と言うのです。そこで、日本の公証の書類は、海外と違って、委任状の本文に公証人の文言を入れる形式ではなく、別紙で公証の文章(日本語と英語)と署名・押印を付けるようになっているから、これで良いはずだ、と伝えました。

それでも弁護士は、いやこれではダメだ、と譲りません。そこで、別の案件で使った公証入りのスキャンコピーが残っていたので、公証のページ(個人名等の情報を消して)を今回の委任状の末尾に挿入して、最終的にはこんな形式になるとして、再度、弁護士に送りました。

間に現地の日本人の方がはいっていたこともあってか、コミュニケーションが今ひとつうまくいかず、とうとう弁護士はもう自分はこの件に関わりたくない、と言い出す始末です。ちょっと唖然です。依頼人と電話で対応策を話し合っていると、「マカオでは、気に入らないとこんな風になることはよくあります。本業は別にもっていて、片手間で弁護士をやっている人もいますし」とのこと。

依頼人と話し、当方の米国スタッフに電話で話しをさせてみましょうかと提案し、承諾してもらったので、件の弁護士事務所に電話をさせました。アシスタントの男性がでたので要件を伝えると、今は弁護士は忙しくて話ができない、明日の夕方5時すぎに電話をしろ、と言います。その時間は米国時間で夜中の2時頃なので、もう少し時間を調整できないかと頼んでも駄目だといいます。結局、話はできませんでした。

マカオはハーグ条約に加盟しているため、この文書の認証にはアポスティーユ付箋が使われます(本文のペーパーとは別のペーパーとして添付されます)。この弁護士はこのことを理解していなかったのでしょうか。ちょっと考えにくいのですが。

そうこうしているうちに、依頼人がマカオに出発する日が迫り、猶予はあと一日。幸い依頼人の自宅がいつも利用させてもらっている公証役場とそれほど離れていないので、公証を当方のスタッフが代理で受けるのではなく、奥さん本人に出向いていただくのが一番確実、という判断を依頼人に伝え、そのように段取りしてもらうことができました。当日、公証人の面前で奥さんが宣誓・署名し、無事に英語版と日本語版の公証を受け、それぞれにアポスティーユを付けてもらうことができました。

完成書類をスキャンし、もう一度、日本の海外向け公証書類の説明を英語で「丁寧に」説明したメールを作成し、スキャンデータを添付して、先方の弁護士に送りました。そして2日後、彼の地で弁護士に合うという当日、依頼人から連絡がいつ入るかと気にしながら仕事をしていました。そして夕方、次のようなメールが入ってきたのです。

本日、先方の弁護士に認証書類を持って行きました。
返答は、「これが欲しかった」でした!
今までのやり取りは何だったの?と思いましたが、契約優先で握手してきました。
無事、金曜日に契約の予定となりました。
色々とありがとうございました。

「なんだよ!」と私も思いましたが、とにかくこれで契約ができることになったのでホッとした次第です。
(続く)